「健康経営の施策」と聞いて、どのようなものをイメージされますでしょうか?
「健康診断の受診率を100%にする」「ストレスチェックの実施」「社内の自販機の飲料をお茶と水にした」など色々あるかと思います。 ですが、このような取り組みを実施することで本当に社員が健康でいきいきと働いているのかを問われると、残念ながら本質的な取組ではないことが多いように感じます。 本記事においては、健康経営を実施するうえで大切なことは何か、をご紹介していきます。
※この記事は、2021年7月13日に開催されたウェビナー『セルフケアの習慣化から始まる健康経営の本質』の内容をもとに作成しています。
健康経営に着手するにあたって、目的や取組方法を間違えると社員の健康増進にはなかなかに繋がりません。第1章では、健康経営の意義を確認し、特に重要なポイントについてご説明します。
まず健康経営とは何かについて説明します。健康経営とは、従業員などの「健康増進への取り組み」を重視し「健康管理」を経営的視点から考え、戦略的に実践する経営手法のことを意味します。
会社が社員の健康を維持・向上させて、元気に働けることをサポートし、その結果として社員の生産性が上がり、会社の収益も上向きになる会社の経営も元気になる、これが健康経営の骨子となります。
続いて、健康経営に取り組む理由について「会社の持続可能性のため」と「日本全体の持続可能性のため」の両面から説明していきます。
会社の持続可能性のために、重要視されるのが「人材の雇用」です。多くの人は、働きやすいホワイトなイメージのある企業で働きたい、というニーズを持っています。そのため、健康経営に取り組むことは、「人材の雇用」に大きく寄与しますまた、社員が定着しなければ以下の3つの隠れた損失を被ることになります。
入社3か月で退職された場合、会社は1人あたり187.5万円の損失を被ると言われています。 ここからも、人材の雇用と定着がいかに大事であるかが実感できます。
健康経営は、日本全体の持続可能性のためにも欠かせない活動となっています。もし健康経営に取り組まなければ働く人たちの医療費が増大し、国民にとって社会保障費の負担がさらに大きくなることが想定できます。
そして医療費の増加に拍車をかけているのが、日本の超高齢会社会への突入です。人口ピラミッドはピラミッド型から2050年には棺桶型になると言われています。つまり働いている一人ひとりが多くの高齢者をささえることになります。
下記表1では、社会保障給付費の推計を表しています。「医療費」も2018年度の39.2兆円から2040年度には最大68.5兆円と1.7倍に増加されることが予想されます。
健康経営に取り組むことで、一人ひとりの医療費を削減しなければ、今後保険給付が縮小されるとさえ言われています。
※出典元 : 18年5月21日 経済財政詰問会議資料
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2018/0521/agenda.html
国全体だけでなく、会社単体としても、予防医療にかける費用は、病気になってしまったときに会社が負担しなければいけない費用の100分の1以下であると言われています。国にとっても会社にとっても健康経営を実施することはとても大切なことであると言えるでしょう。
では健康経営を実施するうえで最も大切なことは何でしょうか? 会社と社員の両側面からお伝えします。
会社にとって最も大切なことは労働環境の改善です。具体的には職場における長時間労働を減らすことやハラスメント等をなくすことがあげられます。
一方、社員にとって最も大切なことの一つに、予防医療につながるセルフケアの実践があげられます。
会社と社員、どちらもとても大切ですが、どちらかというと、主役は社員となります。なぜならどれだけ会社が様々な施策を打ち出しても、社員にその気がなければ健康経営は形だけのものとなる可能性が高くなるからです。 健康経営を推し進めたい会社には、社員がセルフケアの実践を行うためのサポートをすることが求められています。
本章では改めて、会社が健康経営に取り組むことにより、得られる具体的な効果を説明します。
まず、健康の促進を社員が継続することにより、仕事への集中力が増し、高いパフォーマンスを維持することができます。持続可能性の項目でもご説明した通り、離職率の低下にも繋がり、隠れた3つの損失を被ることも無くなります。会社のイメージUPに繋がり、求人への応募者の増加つまり優秀な人材が入りやすくなることも先ほどご説明したとおりです。
最終的に会社の収益がUPすることから健康維持への投資に繋がり、再び社員が健康の促進を続けることになります。これが理想的な健康経営のサイクルです。
下表は、健康経営に熱心な企業への表彰を受けた優良企業と、S&P500という指数に含まれるアメリカの代表的な一般企業群に対して、1999年に同時に1万ドルを投資した場合、13年後の2012年にどうなるかということを仮想計算したものです。
オレンジ色の線が健康経営優良企業で、最終的には17000ドル以上になっています。それに対して青線の一般企業平均のほうは、9900ドル程度になってしまっています。同時期にここまで大きな差が開いたことは、注目に値すると言えるでしょう。
前章の説明の通り、会社が健康経営を打ち出しても社員がセルフケアの実践を行わなければ真の意味での健康経営とはいえません。
本章では、健康な社員を増やすための方法をご紹介します。
社員がセルフケアを実践するうえで大切なことは、経営者自らが健康宣言を行うことです。
ここでのポイントは、担当者が単独で宣言文を作るのではなく、経営者とともに考えることです。そして、経営者が社員全員に向かって健康経営宣言をするようにすすめることが必要です。
また繰り返し経営者と健康に関するコミュニケーションを行うことで、経営者自らも健康意識が高まることが期待できます(コーチング効果)。
それ以外にも社員に向けての社内報の掲示や説明会の実施も意識の浸透化に効果的です。
ポイントはこちらも繰り返し行うこと、また健康経営の担当者はプロジェクト名の入った名刺を作成することで自覚やモチベーションが高まるのでおすすめです。
社員に取り組んでいただくセルフケアの一例をご紹介します。
大切なことはこれらを習慣化してもらうことです。
人が新しく習慣化するようになるには3か月はかかると言われています。社員にセルフケアを実践してもらい、それを習慣化させることは決して簡単ではありません。一つの考え方として、社員に対し動いてもらう仕組みである「認知行動療法」を用いることでセルフケアの習慣化をすることも可能だと言われています。
認知行動療法とは心理学、精神医学領域で使われてきた「人に動いてもらう」「人に変わってもらう」ための方法です。
人が新しい行動を継続していく、目標に向かって頑張るために必要な条件がふたつあります。それが自己決定と自己効力感です。この二つを実行することで人は行動に対して継続的に実施することができます。
自己決定とは、主体的なことしか人はやり続けないことを指します。
例えば、禁煙外来に通った人の8割は禁煙に成功しますが、その8割は1年以内に喫煙を再開すると言われています。辞めることのできなかった人の多くは会社で言われたからや妻に勧められたからなど、他人が決めて禁煙を始めた人です。
「禁煙に関する意識調査」に関するアンケートをインターネットで実施すると、自分の意志が禁煙に繋がると回答した人は、成功者の方が多いというデータがあります。
セルフケアの実践でもこの自己決定が非常に大切となります。
自己効力感とは、「やれた」「できた」という達成感や満足感のことをいいます。
仕事でも目標達成のために順調に計画通り進んでいる場合に達成感や満足感を覚えます。そして自信が生まれ、さらにそのことに熱心に取り組むことができます。
会社の業績目標は高く設定することが多いですが、セルフケアの習慣化には自己効力感が大事ですので、簡単にやり遂げられる目標を設定することをおすすめします。
しかしながら100%達成できるよう難易度を低く設定した目標でも実行できないこともあります。そんなときでも実践者が自分を責めず、「また明日から始めればいい」という気持ちで頑張れるようにしましょう。
健康経営は、健康診断の受診率や健康経営銘柄の取得だけが目的ではなく、社員のセルフケアの実践が大切となります。社員のセルフケアの実践は簡単ではありませんが、対策することはできます。
例えば、自身で目標を設定して毎日記録を付けることでセルフケアを習慣化させるようなWEBサービスを会社で導入するなどは効果的な手法です。会社が社員のセルフケアの実践のサポートをすることで、社員にも前向きな気持ちが生じるようになるでしょう。
健康経営の推進は会社や日本全体が希望のある未来を創造するためには、必要不可欠な要素の一つです。本記事にて、健康経営の重要性を知る一助になれば幸いです。
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